2020-01-01から1年間の記事一覧

8.漱石と文学博士

寒月はあんな妙に見識張った男だから博士論文なんて無趣味な労力はやるまいと思ったら、あれでやっぱり色気があるから可笑しいじゃないか。・・・<略>・・・こればかりは迷亭先生自賛の如く先ず先ず近来の珍報である。啻に珍報のみならず、嬉しい快い珍報…

7.如意観によりて如意法を信じる

大空は万物を覆うため、大地は万物を載せるために出来ている。<略> この大地大空を製造するために彼ら人類はどのくらいの労力を費やしているかというと尺寸の手伝いもしておらぬではないか。自分が製造しておらぬ物を自分の所有と極める法はなかろう。自分…

6.ウィルヒョウとワイズマン(続き)

何故、漱石がこの2人の科学者の名前に言及したのかが気になっていることは、前項で述べた。漱石がこの2人についてどのような情報を持っていて、どういう理由でこの2名を選択したか?という疑問であるが、私がこの点に拘るのは、私にはあまりにも的確な選択に…

5.ウィルヒョウとワイスマン

「・・・・以上の公式にウィルヒョウ、ワイスマン諸家の説を斟酌して考えてみますと、先天的形体の遺伝は無論の事許さねばなりません。またこの形体に追陪して起る心意的状況は、ととい後天性は遺伝するものにあらずとの有力なる説あるにも関せず、ある程度まで…

4.62才で生きているのは丈夫な人!?

「(二弦琴の)御師匠さんはあれで六十二よ。ずいぶん丈夫だわね。」 六十二で生きているくらいだから丈夫といわねばなるまい。 WEB(https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2019/images/mhir18_life01.gif) が教えてくれる明治大正昭和(戦前)の日…

3.4つの真理

第1の真理 得がたき機会は凡ての動物をして、好まざる事をも敢えてせしむ。 第2の真理 凡ての動物は直感的に事物の適不適を予知す。 第3の真理 危うきに臨めば平常なし能わざる所のものをなし能う。これを天佑という。 第4の真理 凡ての安楽は困苦を通過せざ…

2.アンドレア・デル・サルト

「昔し、伊太利の大家アンドレア・デル・サルトが言ったことがある。画をかくなら何でも自然そのものを写せ。天に星辰あり。地に露花あり。飛ぶに禽あり。走るに獣あり。地に金魚あり。古木の寒鴉あり。自然はこれ一幅の大活画なりと。どうだ君も画らしい画…

【3】名簿 東京大学理学部動物学教室 平成7年3月刊行

ここで、若干の寄り道をしてみたい。それは、飯島魁のところで触れた東京大学動物学教室名簿である。この名簿は、動物学教室で数年おきに作成されてきたものであるが、私の知る限りでは、手許にある平成7年に作成されたものが最後のものとなっている。名簿に…

【2】 著者の飯島 魁という人

飯島魁という人のことは、本当はよく知らない。不勉強な私は、飯島の論文を直接読む経験も無かったし、ここで飯島のことを書くにあたって、その事績をきちんと調べることもしていない。ただ、その名前は私が駆け出しの動物学研究者になったころから知ってい…

【1】 私の手許の「動物學提要」

今日、「動物学提要」という本を知っている人はどれくらいいるのだろうか。大正年代に飯島勲氏により著された動物学の教科書である。今からおおよそ100年前の動物学の教科書を眺めることにどれほどの意味があるのか、今、生物学を学ぶ人たちはもはや殆ど無用…

1.猫と教養

「我輩は猫である」というあまり小説らしくない小説を知らない日本人は多くないと思われるが、今日、それを読んだ人もそれほど多くないようである。私が初めてこの本に接したのは中学生時代、当時の風潮として”大人になるまでに当然目にしておくべき古典”を…